筋記憶という言葉は、研究者にとっては、微妙なニュアンスではありますが、
補綴の臨床をやっている先生にとっては、コントロールすべき重要なファクターといえると思います。
例えば、正しいかみ合わせの人にカチンと音を鳴らすように噛んでくださいというと、
カチっと一点で当たる音がします。
実際には、14本の歯同士が同時に当たっているのですが、完全に同時に当たるので、
まるで一点で当たる音がするのです。
お口があいているところから、カチンと噛むときには、筋肉を収縮させて噛みます。
筋肉の収縮のさせ方が少しでもずれると、1点で当たる音はしません。
要は、脳が筋肉の収縮をさせる方向、順番を覚えていて、その通り、
再現性の高い方法で行うことにより、これが可能になります。
このような作用を筋記憶と呼んでいます。
このような特性を利用して、修正するための、かみ合わせをとることもあります。
かみ合わせを正しい位置に誘導しておいて、その位置で噛んでもらう練習をして、
後は、普通に噛んでもらえばよい位置で採取できます。
逆に現状の、ずれたかみ合わせで一度でも噛んでしまうと変なかみ合わせで筋記憶ができてしまうので、
正しい噛み方ができるように、誘導したら、噛まないように指示します。
補綴科の歯科医師は、この特性を利用して、かみ合わせを治すことが多いと思います。
要は、筋肉の収縮の方法や順番は脳が覚えていて、信じられないくらい高い精度でそれが行われるのです。
咬合や、かみ合わせの研究をしていると、人間の脳は本当に驚くくらい高性能です。
しかも、意識しないでもそれが当たり前に行われています。
筋肉は、学習すると再現しようとする特性は、姿勢の修正にも応用できると思っています。
姿勢を正しくすることは、色々な習癖を除去するのにとても役に立つのですが、
なかなか24時間気にすることができません。気をつけていても、すぐに戻ってしまいます。
そのような場合、朝の通勤、通学時間を使うことが役に立つかもしれません。
一日の始まりに、正しい姿勢の筋記憶をつけるということです。通勤の時に、正しい姿勢を意識して過ごして、筋肉に筋記憶として覚えさせることで、保たれるかもしれません。