少し専門的な内容になりますが、食べるという人間に欠かせない機能について学びましょう。咀嚼がどのようにして行われているかを知ることは意外に大切です。それは、成長期の習癖がどう影響するか、義歯やインプラントになったときに慣れていく過程を知ったり、高齢になって嚥下等の機能の衰えに対応する方法など、いろいろな場面で知識が役に立つと思います。以下に述べる知識は咀嚼について考えるときのヒントになります。
咀嚼は単純な開閉運動ではなく、複雑な動きをしています
基本的には開閉運動ですが、側方にも動きます。
開口相と閉口相があります。開口相は早い相と遅い相に分かれます。閉口相も早い相と遅い相に分かれます。
咀嚼は一定のリズムを刻んで行われます
咀嚼はリズミカルに行われます。クオリティーの低い義歯ではリズムが侵害される傾向があります。
咀嚼しやすい食べ物であるほど咀嚼リズムが規律的になります。
上下の歯が、義歯ではなく歯同士で噛んでいるほど、咀嚼リズムは安定します。
咀嚼は大きく分けて閉じる運動と開ける運動に分かれます。開ける運動から閉じる運動に切り替わるタイミングは、
食品によって異なります。口が開かない程度の開口量となります。
咀嚼は主に開口筋と閉口筋を用いて行われます
筋肉は収縮することで力を発揮します。噛む筋肉の中でも咬筋が最も力を発揮します。
咬筋は力が強すぎるので、歯が割れてしまう原因にもなります。奥歯から悪くなっている場合は、力が強すぎることが原因のことが多いと思います。
大きな力で食いしばると下顎の骨がたわむ程の力が咬筋から出力されます。
咀嚼運動は脳が複雑な指令を出して成り立っています
脳は指令を出して神経を通って筋肉を収縮させます。
筋肉はすべて収縮します
脳は筋肉をどの方向にどれくらいの力を入れるかをコントロールしています。
歯ぎしりはこのコントロールがない状態なので、歯やいろいろな器官を壊してしまいます。
同じようにインレー、クラウン、入れ歯、インプラント、など補綴物を新しく入れた後に、頬、舌を噛んでしまったり、ひどいときには新しい補綴物を壊してしまうことがあるのは、コントロールがきいていないからです。
痛みがでる状態では、痛みを避けるための代償運動をおこないます。
運動制御は脳が行います。脳に入る情報として、 粘膜の触覚、歯根膜感覚、筋肉があります
入れ歯の下に根だけを残して義歯を入れることのメリットは、噛んだ感覚が残ることにあります。
舌は食べ物がかみ合わせる面から下に落ちないように回転させています。
頬も収縮させて噛む面から落ちないように機能させています。
舌と頬を上手に操って食べ物をかみ合わせの面の効率のよい場所にくるようにしています。
入れ歯や、大きなかぶせ物を入れた後は、協調することができないので、舌を噛んだり、頬を噛むことがあるのです。
噛む力は通常、強すぎることが多いです。特に、70歳を超えたら、80%の力の大きさで咀嚼して、咀嚼回数を増やして対応するほうが、歯や関節などの咀嚼器官を守ることができます。
食いしばりで歯がすり減っている人の咀嚼経路は、通常とは異なります。
そうなると歯が横向きに揺らされることになります。
食いしばりや、歯がすり減ってしまう原因は、歯ぎしりだけとは限りません。歯ぎしりを行う方でも、一般的に日中上下の歯をくっつけてしまう習癖が存在しています。
咀嚼は若い人は、強い力で少ない回数で行う傾向があります。この食べ方は、効率はよいかもしれませんが、歯や顎関節に大きな負担をかけてしまいます。そのような方も噛む力を少し減らして咀嚼回数を増やして食事をするとよいでしょう。
咀嚼を止める反射運動が存在します
咀嚼に伴い唇と舌と頬を協調させています
咀嚼や発語の時を除いて、舌には正しい位置というのが存在します。
上顎の前歯の根元にあるぽこっとした膨らみに舌の先が触り、舌が上顎にべたっとついた状態が正しい位置になります。
そのときは、上の歯と下の歯はわずかに隙間があり、唇は必ず閉じておきます。
姿勢を正しくするのも重要です。つむじの真ん中あたりをピアノ線で上方向に引っ張られた状態をイメージするとよいでしょう。
舌は、筋力と筋肉をコントロールする能力の両者が必要ですが、両者とも低下しやすいです。高齢になって、筋機能が衰えると舌で食塊を落とさないようにコントロールする能力が低下します。
咀嚼時は必ず意識的に唇を閉じて行うようにしてください。唇の筋力が衰えると、食べているときにお口を開いた状態なることがあります。また、お口が開いた状態を普通に思うようになると、唇の筋力が衰えるようになります。
筋肉を動かす指令を出しているのは神経です。その神経にどの筋肉を収縮させるかを決めるのは脳です。脳の役割はハイレベルです。
どの筋肉を動かすかというのは、いろいろな器官をとおして、学習します。